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こうふくのはさみ
幸福のはさみ
小川 未明
「婦人界 6巻11号」1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,458 字 · 9 页
どんな人がそこにすわっているのだろうと、正吉は思いながら、だんだんと、その露天の方に近づいてきました。風に吹かれて、落ち葉は、その火の周囲に渦巻いていました。しかし、すわっている人は、じっとして動きませんでした。
正吉は、一人の女が、さびしそうに往来を見つめてすわっているのを見ました。そして、提燈のうす暗い火影で、その顔を見ますと、恋しいお母さんに、まったくよく似ているのでありました。
その女は、前にむしろを敷いて、はさみをならべていました。そのはさみは、着物を縫うときに入り用のはさみでありました。
正吉は、しばらく、その女を見つめてたたずみました。そして、見れば見るほど、恋しいお母さんの顔によく似ていましたので、とうとう自分を忘れて、正吉は「お母さん。」といって、そのそばに、駆け寄りました。
すると、その女は、さびしく笑いました。そして、しっかりと正吉を抱き寄せました。
「私は、坊やのお母さんじゃありません。その証拠に、私の頭の髪は、こんなに灰色がかっています。しかし私は、坊がさびしいのをよく知っている。私が、おまじないをしてあげる。もうこれから、お父さんは、けっして、こんな風の吹く暗い晩に、坊をお使いになぞ出しはしないだろう……。