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こうふくのはさみ
幸福のはさみ
小川 未明
「婦人界 6巻11号」1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,458 字 · 9 页
」
こういって、女の人は、前のむしろの上に載せてあったはさみの中から、一つのはさみを取って、自分のほおのあたりに垂れかかった、髪の毛を二、三本切って、それをば、正吉の持っていた徳利の中に入れて渡しました。そして、正吉の頭をなでながら、
「お父さんが待っておいでなさるから、早く酒を買って、家へお帰りなさい。気をつけて転ばないようにおゆきよ。坊が帰るまで、私は店を出しています。」と、やさしくいって、正吉の顔をのぞきました。正吉は、お母さんは髪の毛が、もっと黒かったと思いましたけれど、あまりその女の人がお母さんに似ているので、ただ悲しく、なつかしさで胸がいっぱいでありました。そして、その女の目の中がうるんで涙でいっぱいなのも、ほんとうにお母さんが自分を見るときとまったく同じでありました。それですから、正吉も悲しくなって、しくしくと泣き出しました。
すると、女は、正吉を前の方に、押し離すようにして、
「私にも、ちょうど坊と同じぐらいの男の子がありますの。しかし、おとなで、さびしがりもせず、独りで私の帰るまでお留守居をしていますよ。坊やも、早くお家へ帰って、お父さんの手助けをしてあげなければなりません。