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ゆうれい

幽霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页

青空文庫

平田氏自身でも、何んだかめっきり年をとった様な気がした。頭の白髪も一二ヶ月以前に比べると、ずっとふえた様に思われた。

「如何でしょう。どこかへ保養にでもいらしって見ては」

医者に見て貰うことはいくら云っても駄目なので、家族の者は今度は彼に転地を勧めるのであった。平田氏とても、門前であの顔に出逢ってからというものは、もう邸にいても安心出来ない様な気がして、旅行でもして気分を換えて見たらと思わないではなかったので、そこで、その勧めを容れて暫くある暖かい海岸へ転地することにした。

予め行きつけの旅館へ、部屋を取って置く様に葉書を出させたり、当座の入用の品を調えさせたり、お供の人選をしたり、そんなことが平田氏を久しぶりで明い気持にした。彼は、いくらか態とではあったけれど、若い者が遊山にでも行く時の様にはしゃいでいた。

さて、海岸へ行って見ると、予期した通りすっかり気分が軽くなった。海岸のはればれした景色も気に入った。醇朴な開けっぱなしな町の人達の気風も気に入った。旅館の部屋も居心地がよかった。そこは海岸ではあったけれど、海水浴場というよりは寧ろ温泉町として名高い所だった。