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ゆうれい
幽霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页
彼はその温泉へ這入ったり、暖かい海岸を散歩したりして日を暮した。
心配していた例の顔も、この陽気な場所へ現れそうにもなかった。平田氏は今では人のいない海岸を散歩する時にも、もうあまりビクビクしない様になった。
ある目、彼はこれまでになく、少し遠くまで散歩したことがあった。うかうかと歩いている内に、ふと気がつくといつの間にか夕闇が迫っていた。あたりには、広い砂浜に人影もなく、ドドン……ザー、ドドン……ザーッと寄せては返す波の音ばかりが、思いなしか何か不吉なことを告げ知らせでもする様に、気味悪く響いていた。
彼は大急ぎで宿の方へ引返した。大分の道のりであった。悪くすると半分も行かぬ内に日が暮れ切って了うかも知れなかった。彼はテクテクテクテクと、汗を流して急いだ。
後から誰かついて来る様に聞える自分の跫音に、彼は思わずハッとふり返ったりした。何かがひそんでいそうな松並木のうす暗い影も気になった。
暫く行くと、行手の小高い砂丘の向側に、チラと人影が見えた。それが平田氏をいくらか心丈夫にした。早くあのそばまで行って話しかけでもしたら、この妙な気持が直るだろうと、彼は更に足を早めてその人影に近づいた。