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ゆうれい
幽霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页
足の痛みで歩き廻る訳には行かなかったけれど、食事など普通にとった。
丁度朝飯を済ませた所へ、昨日世話をして呉れた青年が見舞に来た。彼もやっぱり同じ宿に泊っていたのだ。見舞の言葉や御礼の挨拶が、段々世間話に移って行った。平田氏はそういう際で話相手がほしかったのと、礼心とで、いつになく快活に口を利いた。
同席していた平田氏の召使がいなくなると、それを待っていた様に、青年は少し形を改めてこんなことを云った。
「実は僕はあなたがここへ入らした最初から、ある興味を以てあなたの御様子に注意していたのですよ……何かあるのでしょう。お話下さる訳には行きませんかしら」
平田氏は少からず驚いた。この初対面の青年が、一体何を知っているというのだろう。それにしても余り無躾な質問ではないか。彼はこれまで一度も辻堂の怨霊について人に話したことはなかった。恥しくってそんな馬鹿馬鹿しいことが云えなかったのだ。だから今この青年の質問に対しても、彼は無論ほんとうのことを打明けようとはしなかった。
だが、暫く問答をくり返している間に、それはまあ何という不思議な話術であったか。青年はまるで魔法使の様に、さしもに堅い平田氏の口をなんなく開かせて了ったのである。