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かんとんねぎ

広東葱

国枝 史郎

「講談雑誌」1921(大正10)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,425 字 · 15 页

青空文庫

一

一

夕飯の時刻になったので新井君と自分とは家を出た。そして自分の行きつけの――と云っても二三回行っただけの――黄華軒という支那料理店へ夕飯を食いに這入って行った。

「日本人は一人も居ないんだね」

新井君は不意にこう云ったが、自分にはその意味が解らなかった。

「日本人が一人も居ないとは?」

「料理人もボーイも支那人だね……屹度主人も支那人だろう」

「何故?」と自分は訊き返えした。

「特別に料理が旨いからさ……純粋の支那人の店でなければ、こう旨くは料理は出来ないものさ」

「新聞記者だけのことはあるね……君のいう通り此処の主人は、六十位の支那人だよ」

その時ボーイが近寄って来て、別の料理を置いて行った。

「先刻のボーイとは違うのだね」

新井君はこう云って其ボーイを探るような眼をして見詰めるので、自分はいくらか可笑くなった。

「先刻のボーイは醜男だが、今のボーイは可愛いだろう。あれだけの美貌を持ったボーイは、日本人にも一寸無いよ」

自分は壁に貼ってある梅蘭芳の石版画とボーイとを見比らべてこう云った。

ボーイは自分達がそんな噂をして居ようとは夢にも知らず、正面の壁に背を持たせかけ、水煙草を一心に吸っていた。