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かれはだれをころしたか
彼は誰を殺したか
浜尾 四郎
「文藝春秋」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,147 字 · 27 页
一
男でもほれぼれする吉田豊のやすらかな寝顔を眺めながら中条直一は思った。
「こんな美しい青年に妻が恋するのは無理はないことかも知れない。どう考えても俺は少し年をとりすぎている。ただ妻の従弟だと思ッて近頃まで安心していたのは俺の誤りだッた。明日はどうしてもあれを決行しよう」
中条はこんなことを思い耽りつつ、海辺の宿屋の小さい一室で、真夏の暑苦しい夜を一睡もせず明かしてしまった。
彼は十五も年の違う美しい妻の綾子の愛に対して妙に自信がもてなかった。だから大抵の男が綾子に会うのを警戒していた。近頃ではこれが判然として来たので、心ある友人は彼を馬鹿にしながらも訪ねるのを遠慮するようになった。ただ今年大学にはいったばかりの綾子の従弟の吉田豊ばかりは平気でやって来て綾子と親しく話していた。又中条の方でも何らの不安もなかった。それはただ従姉弟同志だから、という理由からであった。
その吉田の最近の行動は、中条から云えばどうも許し難かった。従姉弟のことだ、自分との結婚以前にはどんなに親しかったか知れない。然し結婚後にもその親しさを延長されてはたまらないというのが、彼の気持だった。