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おうまじるしはいしゃく
御馬印拝借
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页
こうして正面の守備をととのえたところで、菩提山奪取という秘策をたてたのだ、菩提山は掛川から東北へおよそ十里、駿河のくに志太郡にあって、高さは七百尺あまりだが上に堅固な砦が築かれている、府中城の外塁として、遠州からの攻口をにらむなかなか重要な拠点であった、これを攻略して敵の側面へ一石を打とうというのである、……選まれたのは榊原の先手組で、土田源七郎を旗がしらに百五十騎、精兵すぐって敵塁へと挺進して来たのだった。菩提山奪取の使命は徳川本軍が駿河へ突入するまで府中の兵力を牽制するにある、すなわち府中攻撃の捨石になるわけで、――全員あげて討死せよ、という意味はそこを指したのだ。
「しるしの松ではありませんか……」すぐうしろにいた河津虎之助がそう云った、「そこに見えているようですが」「うん……」源七郎は足をとめた、探索を放ってしらべさせた標の松、敵塁攻撃のあしばとなるべき場所へ着いたのだ。それは山の中段にある台地で、大きな赤松が叢林の中にぬきんでており、そこから上は草木を伐りはらった裸の斜面で頂上へと続いている、「息をいれろ……」源七郎はそう命じ、行李の荷駄が着く