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おうまじるしはいしゃく

御馬印拝借

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页

青空文庫

とか喚きだす者もあって、満々たる活気がゆれあがるようにみえた。……てばやく兵粮をつかった源七郎は、ひとりで砦塁を隅々まで見まわった。武庫三棟、糧秣倉があり、東に面して馬の通う道がついている、空壕は二重で、そのうしろに石塁を築きあげ、西南の隅にものみの望楼がある、その下の石室のような造りが部将の詰所であろう、そこから狭い通路が兵たちの長屋へ続いていた。「……水がないな」すっかり見まわったかれは、眉をひそめながらそう呟いた、「なかなか堅固な砦だ、これなら小勢でもじゅうぶん戦える、水の補給さえつけば……」まず水の湧く場所をみつけなければなるまい、そう呟いているところへ河津虎之助がやって来た、「汗をおながしなさいませんか、いま水甕をみつけだしたのですが……」「いいな」源七郎はすぐに踵をかえした、「しかしみんなにゆきわたるほど有るか」「いや下へいま水場を捜しにやりましたから……」そう云いながら虎之助は望楼の下へ導いていった。そこには四斗あまりも入りそうな水甕が担ぎ出してあり、半のしたくもできていた、それを見ると数日来の汗と膏で粘りつくような肌が急にやりきれなくなり、源七郎はいそいで具足をぬぎにかかった。