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おうまじるしはいしゃく
御馬印拝借
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页
源七郎は唇を噛んだ、本軍の大井川渡渉が済むまではこの砦を確保しなければならない、あせるな、あせるな、かれはもりあがってくる決戦の期を前にして、ともすれば逸りたつ心をぐっとひきしめ、ひとしきり防戦を銃撃に集めた。
午後二時すぎると塁の中に寐ていた傷兵たち十七人も出て来た、かれらはこの砦を奪取するとき負傷したもので、それまでかたく出ることを禁じられていたのだが、矢叫び鬨のこえの激しくなりまさるのを聞いて堪りかね、ついに塁へ出て戦いに加わったのである、かれらは死者の銃をとり、弓を持った、弾丸を運び、水を配ってまわった。敵の矢弾丸はその頃から圧倒的になり、みるみる味方の損害が増しはじめた。「おい勘解由小路二郎三郎左衛門……」左翼の塁壁の下でそう呼ぶこえがした、呼ばれた者がふり返ると、相手は横ざまに倒れ、銃を左手に起きあがろうとしているところだった、「どうした弥五兵衛、やられたか」「……なに」かれは走せ寄った友を見あげ、にっと笑いながら首を振った、「……背中を、また蚤が食いやがる、済まないが、手を入れて掻いて呉れ」「……そうか」頷くなり具足の衿をくつろげ、手をさし入れて掻きさぐった、蚤ではなく、貫通した