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ごちそうのはなし

御馳走の話

中谷 宇吉郎

正月の御馳走「東京新聞」1954(昭和29)年1月<br>感謝祭の七面鳥「山陽新聞」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,746 字 · 6 页

青空文庫

一 正月の御馳走

一 正月の御馳走

正月の御馳走というと、いつでも思い出す話がある。それは小林勇君が、露伴先生から聞いた話である。

大分前のことであるが、或る正月に、小林君が露伴先生のお宅を訪れたときの話である。多分昆布巻、数の子、田作という、昔ながらの品々が、膳の上に並んでいたのであろう。それをつまみながら、例によって無遠慮な男のことであるから、「正月の御馳走といえば、どうしてこう不味いものばかりなんでしょうね」と聞いたというのである。そしたら先生が「そうじゃないよ。これが昔は御馳走だったんだよ」といわれたそうである。

この話を聞いて、すぐ頭に浮んだのは、私たちが子供時代に食べていた食い物のことである。北陸の片田舎のことであるから、ふだんは、ずいぶん貧しいものを食っていた。それで、黒い昆布巻、黄色い数の子、紅を塗ったはんぺん、輪切りにした蜜柑などが、重箱の中にいっぱい並んでいるのは、いかにも綺麗であった。母がその重箱を持ってきて、皆の前で蓋を取ったとたんに「ああ、綺麗だな」と子供心に思ったことを、今頃になって思い出した。

正月の料理はあれでなかなかよくできているので、昆布には沃素と加里があり、田作にはカルシウムと燐がある。