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おたか
御鷹
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页
九
然し、角三郎はまだ落着いていた。鷹の寄りそうな樹を眺めているのか、丘の小高い所に立って、やや暫く、夕雲に顔を焦いて、凝と立っている――
そこから、広い夕空が見渡されるのであった。角三郎は、右手の人差指と中指を口の中へ頬ばった。そして、野駈けの折にふく鷹笛を吹きぬいた。
頭の上で――颯と風が答えたような気がした。然し、仰向いても、鷹のすがたは見えないのである。
幾たびか、指笛を、彼は繰返していた。――そのうちに、お悦がさけんだ。
『――居ました! 居ました! あの梢に』
高い樫の木の梢である。肩を張って、黒い物がとまっている。角三郎は、落着き払って、適度に近づいて行った。そして、自分の拳を見せるように振った。
だが、鷹の眼は、彼の拳を見向きもしない。樫の木から凝と、地上の何ものかを、鋭い眼で見つめているのだ。そこには、木枯しに吹き磨かれて、もう青く冴えている二日月の下に、弁馬の死骸が、まだ生々しい血しおを湛えて横たわっているのである。
九
仰向いたきりだった。頸の骨が痛くなるのも忘れて。
『ちいッ……』
舌打ちして角三郎は、懐中の物を、空へ抛った。印籠まで抛り上げた、そして指笛を吹いた。