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おたか
御鷹
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页
八
そう云って歩み出しながら、霜のような白い歯を冷たい唇から見せて薄く笑った。
『あ。……そうだ』
不意に、思い出したように、角三郎は又、二、三歩戻って、
『お悦……。おいっ……お悦っ……返辞をせんかっ……』
『……はい』
『御鷹部屋は、閉めて来たか』
八
『御鷹? ……』
そう云われて、お悦は、自分の肩を――背を――見まわした。
朱い房は、襟元にかかっていたが、鷹のすがたは、何処で離れたのだろうか。――屋敷を駈け出す時までは、自分の肩に止まっていたように覚えていたが? ……。
『何を見ているのだ。――御鷹小屋の戸は閉めて来たかと訊くのだ』
『いいえ……』
『何、閉めて来ない?』
『吹雪は、私の肩に乗っていたのですが』
『持って出たのか』
『…………』
『将軍家の御鷹。近いうちに、御野駈におつかいになるあの吹雪。――何処へおいた、それを』
『……探して参ります。まだそこらに』
裾を踏んで、よろめきながら、お悦が起ちかけると――
『女に、鷹が呼べるかっ、間抜けな』
舌打ちしたが、然し、彼には、飼い馴らしている多年の自信と、逃げても、姿さえ見出せば、空から自分の拳へ呼びもどせる確信は充分にあった。