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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

七

その事は、後で二人の解決としよう、とにかく、時刻もないから――

と、墨はうすくそこで尽ているのであった。

(違います……違います! ……弁馬などの子では……)

もうぼろぼろと涙になる胸の裡で、お悦はさけんでいたが、心の片隅では、自分を暗い疑惑にひき込む恐い記憶が爪を出して、掻きむしっていた。

(……それは……それはたった一度……自分も知らない間の過失ちです。……腕ぶしのつよい弁馬に強迫されて、無態に気を失っているうちに。……いいえ知りません! ……私の知らないことです。私の知っているのは、あなた以外には)

夢中で、御鷹部屋の戸を押した。さっと入る光を見ると、吹雪は、突然、大きな羽音を搏って、彼女の肩へ移った。

お悦は、吹雪の脚から胸へ垂れた朱い房をつかんで、庭木戸から外へ走って出た。濡れた睫毛で見る冬の中里の野や林は、みな虹色に滲んで見えた。

七

智識、理智、仕事、どんな事にかけても、角三郎は弁馬の遙か上にあるが、武力となっては、敵ではない。

お悦は、枯野を、まだ霜ばしらのある湿地を、息を喘って御薬園裏の原へ駈けた。

――もう間に合わないかも知れぬ。