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こころのかわ

心の河

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,442 字 · 37 页

青空文庫

さよは、良人に興味を持たせたく、一生懸命に云った。

「吉村さんと鈴木さんとは同じ実業家でしょう。実業家といっても二人は実業につく動機がまるで異うと思ったの、そのこと――」

「厄介なことになったな」

保夫は間に合わせな答をした。

「第一、男の見た男と、女の見た男とは大分違うよ」

「いやな方!」

さよは、酸いような笑いを笑った。

「違うからこそ当てて頂戴と申上るのよ。あの二人は性格が随分異っているでしょう、その違いを私がどう感じたかということなのよ」

「さあ――大体何だろう、鈴木は神経質で、考え出すと眠れないという方だが、吉村はずっと太っ腹だろうな。大損をしてハッハッハッと笑うのは、吉村でなけりゃあ出来ない芸当だろうな」

さよは、詰らなそうに良人を見た。彼女は諦めきれない風でつけ足した。

「私の云った要点とまるで違ってよ、それは」

「だって彼奴の性格はそうだよ。事実だから仕様がない」

さよは黙り込んだ。彼女は何ともいえない物足りなさと淋しさとを感じた。せっかく一心に矢を射いても、いざというところで的がくらりと斜かいになり、徒に流れ矢となって落ちてしまう。さよは、せめてかっちり、要点だけは受けとめて欲しかった。