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しんじゅう
心中
「中央公論」1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页
国から来た親類には、随分やかましい事を言われる様子で、お蝶はいつも神妙に俯向いて話を聞いていても、その人を帰した跡では、直ぐ何事もなかったように弾力を回復して、元気よく立ち働く。そしてその口の周囲には微笑の影さえ漂っている。一体お蝶は主人に間違ったことで小言を言われても、友達に意地悪くいじめられても、その時は困ったような様子で、謹んで聞いているが、直ぐ跡で機嫌を直して働く。そして例の微笑んでいる。それが決して人を馬鹿にしたような微笑ではない。怜悧で何もかも分かって、それで堪忍して、おこるの怨むのと云うことはしないと云う微笑である。「あの、笑靨よりは、口の端の処に、竪にちょいとした皺が寄って、それが本当に可哀うございましたの」と、お金が云った。僕はその時リオナルドオ・ダア・ヰンチのかいたモンナ・リザの画を思い出した。お客に褒められ、友達の折合も好い、愛敬のあるお蝶が、この内のお上さんに気に入っているのは無理もない。
今一つ川桝でお蝶に非難を言うことの出来ないわけがある。それは外の女中がいろいろの口実を拵えて暇を貰うのに、お蝶は一晩も外泊をしないばかりでなく、昼間も休んだことがない。