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しんじゅう
心中
「中央公論」1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页
佐野さんが来るのを傍輩がかれこれ云っても、これも生帳面に素話をして帰るに極まっている。どんな約束をしているか、どう云う中か分からないが、みだらな振舞をしないから、不行跡だと云うことは出来ない。これもお蝶の信用を固うする本になっているのである。
お金は宵に大分遅くなってから、佐野さんが来たのを知っている。外の女中も知っている。こんな事はこれまでもあったが、女中達が先きに寝て、暫く立ってから目が醒めて見れば、いつもお蝶はちゃんと来て寝ていたのである。それが今夜は二時を過ぎたかと思うのに、まだ床に戻っていない。何と云う理由もなく、お金はそれが直ぐに気になった。どうも色になっている二人が逢って話をしているのだと云う感じではなくて、何か変った事でもありはしないかと気遣われるような感じがしたのである。
* * *
お花はお松の跡に附いて、「お松さん、そんなに急がないで下さいよ」と云いながら、一しょに梯子段を降りて、例の狭い、長い廊下に掛かった。
二階から差している明りは廊下へ曲る角までしか届かない。それから先きは便所の前に、一燭ばかりの電灯が一つ附いているだけである。