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しんじゅう

心中

森 鴎外

「中央公論」1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页

青空文庫

お松も余り好い気持はしない。お花が陽にお松を力にしているように、お松も陰にはお花を力にしているのである。

便所が段々近くなって、電灯の小さい明りの照し出す範囲が段々広くなって来るのがせめてもの頼みである。

二人はとうとう四畳半の処まで来た。右手の壁は腰の辺から硝子戸になっているので、始て外が見えた。石灯籠の笠には雪が五六寸もあろうかと思う程積もっていて、竹は何本か雪に撓んで地に着きそうになっている。今立っている竹は雪が堕ちた跡で、はね上がったのであろう。雪はもう降っていなかった。

二人は覚えず足を止めて、硝子戸の外を見て、それから顔を見合わせた。二人共相手の顔がひどく青いと思った。電灯が小さいので、雪明りに負けているからである。

ひゅうひゅうと云う音は、この時これまでになく近く聞えている。

「それ御覧なさい。あの音は手水場でしているのだわ。」お松はこう云ったが、自分の声が不断と変っているのに気が附いて、それと同時にぞっと寒けがした。

お花はこわくて物が言えないのか、黙って合点々々をした。

二人は急いで用を足してしまった。そして前に便所に這入る前に立ち留まった処へ出て来ると、お松が又立ち留まって、こう云った。