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しんりしけん

心理試験

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,728 字 · 46 页

青空文庫

判事はそこに何かの意味を発見しようとして悶えた。判事の最も残念に思ったのは、老婆が紙幣の番号を控えて置かなかったことだ。それさえあれば、この疑わしい金が、事件に関係があるかないかも、直ちに判明するのだが。

「どんな小さなことでも、何か一つ確かな手掛りを掴みさえすればなあ」判事は全才能を傾けて考えた。現場の取調べも幾度となく繰返された。老婆の親族関係も十分調査した。併し何の得る所もない。そうして又半月ばかり徒らに経過した。

たった一つの可能性は、と判事が考えた。蕗屋が老婆の貯金を半分盗んで、残りを元通りに隠して置き、盗んだ金を財布に入れて、往来で拾った様に見せかけたと推定することだ。だが、そんな馬鹿なことがあり得るだろうか。その財布も無論検べて見たけれど、これという手掛りもない。それに、蕗屋は平気で、当日散歩のみちすがら、老婆の家の前を通ったと申立てているではないか。犯人にこんな大胆なことが云えるものだろうか。第一、最も大切な兇器の行方が分らぬ。蕗屋の下宿の家宅捜索の結果は、何物をも齎らさなかったのだ。併し、兇器のことをいえば、斎藤とても同じではないか。