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しんりしけん

心理試験

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,728 字 · 46 页

青空文庫

二

彼はその世間話を徐々に一つの方向へ落して行った。そして、屡々老婆の財産のこと、それを彼女がどこかへ隠しているという噂のあることなぞ口にした。彼は「隠す」という言葉の出る毎に、それとなく老婆の眼を注意した。すると、彼女の眼は、彼の予期した通り、その都度、床の間の植木鉢(もうその時は紅葉ではなく、松に植えかえてあったけれど)にそっと注がれるのだ。蕗屋はそれを数回繰返して、最早や少しも疑う余地のないことを確めることが出来た。

二

さて、愈々当日である。彼は大学の正服正帽の上に学生マントを着用し、ありふれた手袋をはめて目的の場所に向った。彼は考えに考えた上、結局変装しないことに極めたのだ。若し変装をするとすれば、材料の買入れ、着換えの場所、其他様々の点で、犯罪発覚の手掛りを残すことになる。それはただ物事を複雑にするばかりで、少しも効果がないのだ。犯罪の方法は、発覚の虞れのない範囲に於ては、出来る限り単純に且つあからさまにすべきだと云うのが、彼の一種の哲学だった。要は、目的の家に入る所を見られさえしなければいいのだ。仮令その家の前を通ったことが分っても、それは少しも差支ない。