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しんりしけん

心理試験

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,728 字 · 46 页

青空文庫

そして、玄関の土間から、極く低い声で(これらは隣家への用心だ)案内を乞うた。老婆が出て来ると、彼は、斎藤のことについて少し内密に話し度いことがあるという口実で、奥の間に通った。

座が定まると間もなく、「あいにく女中が居りませんので」と断りながら、老婆はお茶を汲みに立った。蕗屋はそれを、今か今かと待構えていたのだ。彼は、老婆が襖を開ける為に少し身を屈めた時、やにわに後から抱きついて、両腕を使って(手袋ははめていたけれども、なるべく指の痕はつけまいとしてだ)力まかせに首を絞めた。老婆は咽の所でグッという様な音を出したばかりで、大して藻掻きもしなかった。ただ、苦しまぎれに空を掴んだ指先が、そこに立ててあった屏風に触れて、少しばかり傷を拵えた。それは二枚折の時代のついた金屏風で、極彩色の六歌仙が描かれていたが、その丁度小野の小町の顔の所が、無惨にも一寸許り破れたのだ。

老婆の息が絶えたのを見定めると、彼は死骸をそこへ横にして、一寸気になる様子で、その屏風の破れを眺めた。併しよく考えて見れば、少しも心配することはない。こんなものが何の証拠になる筈もないのだ。