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いかりのむし

怒りの虫

豊島 与志雄

「群像」1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页

青空文庫

ところが、どうも生き返る見込みがなさそうだから、暑くならないうちに切り倒して、害虫の蔓延を防ごうということになったが、有力な反対が起った。なにしろ一種の神木に関することであり、慎重を期する必要があるので、も一度、専門の博士に鑑定を仰ぎたい。ついては、木山宇平がこんどあちらへ行く際に、その博士を同道願えないものだろうか。そういう頼みだった。

木山は忘れていたが、明後日、彼は出張する予定だったのである。

木山は聞いていて、かっとなった。事務員を怒鳴りつけた。

「予定はあくまでも予定だ。僕があちらへ行こうと行くまいと、それは僕の勝手じゃないか。僕の方にだって都合があるからね。」

彼は由美子のことを思い出していた。

「松の木のことなんか、今明日にさし迫った問題じゃあるまい。」

くどくどと、弁解の言葉が受話器に伝わってきた。

「だいたい、ばかげた話だ。何が神木かね。まだそんな迷信が残ってるのか。さっさと切り倒せばいいじゃないか。」

くどくどと、また弁解の言葉だった。

「そんなこと、取り合うのがばからしい。電報を打つんだ。松食虫に相違ないから、切り倒せと、電報にするんだ。