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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页
片耳を切られて
こう口を出したのは、越中の薬売りだという三十一、二の小柄の男であった。
「まアお聞きなさい。……お嬢様は、良人になる奉行の息子というのが、兎口の醜男なので嫌いぬいていたんですが、親と親との約束なのでどうにもならず、それで婚礼の席へは出たものの、今夜からこの男と……と思ったらいても立ってもいられず……そこでその席から逃げ出し……若党をつれて湯治場へ遁がれ……」
「婚礼の当夜ではあり、若い若党と、そんな温泉宿で、二人だけで泊まったのに、何んでもなかったとは偉いですなあ」
と云ったのは、同じ越中の薬売りであった。
「だが人は信じますまいよ」
「そうなのです」
と、絹商人は話をつづけた。
「お嬢様の父親というのがまず信じなかったそうで……」
「どうしました?」
「主家の娘を誘惑し、連れ出し、傷者にした不届きの若党というので……」
「どうしました?」
「打ち首……」
「へえ」
「というところを、片耳を剃いで、抛りだしたそうで」
「ひどいことをしやがる。娘がそいつを止めないという法はない」
「そうですとも」
「それから娘はどうしました?」
「翌年、他藩の重役のご子息のもとへ、めでたく輿入れなされたそうで」