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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

怪しの館

一

ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。

四人の武士が話している。

夜である。初夏の宵だ。

「どうでも誘拐す必要がある」

こういったのは三十年輩の、いやらしいほどの美男の武士で、寺侍かとも思われる。俳優といってもよさそうである。衣裳も持ち物も立派である。が、寺侍でも俳優でもなく、どうやら裕福の浪人らしい。

「どうして誘拐いたしましょう?」

こうきいたのは三十二、三の武士で、これは貧しい浪人らしい。左の小指が一本ない。はたしあいにでもまけて切られたのだろう。全体が卑しく物ほしそうである。

「そこはお前達工夫をするさ」

美男の武士はそっけない。

「どうしたものかの?」

と小指のない武士は、一人の武士へ話しかけた。誘拐の相談をしたのである。

「さればさ」

といったのは、二十八、九の、これも貧しげで物ほしそうで、そうして卑しげな浪人であったが、頤にやけどのあとがあった。「姿をやつして立ち廻り、外へ出たところをさらうがよかろう」

「駄目だ、駄目」

と抑えたのは例の美男の武士であった。

「期限があるのだ、誘拐の期限が。