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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页
……何番さんだったかしら? ……お湯へおはいりなさいよ」
そういうとお蘭は、背中を湯面へ浮かせ、蛙泳ぎをして湯槽の向こう側へ泳いで行き、振り返るとぼんのくぼを湯槽の縁へかけ、フーッと、唇をとんがらかして湯気を吹き、男と向かい合った。
「おかしな人ね、棒ッ杭のように突っ立ってるってことないわ。……わかった、あんた恥ずかしがり屋さんね、女の子と一緒にお湯へはいるの恥ずかしいのね。……大丈夫、あたしかまやアしないことよ。……おはいりなさいよ。フーッ」
「はいってもいいかい」
と男ははじめて云った。その声は深みのある、また濁りのある、聞く人の心をゾッとさせるようなところのある声であった。しかも四辺を憚るように、押し殺した声であった。
怪しの男
でもお蘭にはそんなことは気が付かないらしく、
「どうしたって変な人ね、湯治に来たくせに、湯へはいっていいかいなんて。……おはいりなさいよ」
「じゃアはいろう」
男は湯槽の中へ下りて来た。すぐ沈んだ。
「湯の中へ頬冠りしたままではいるなんてことないわ。おとりなさいよ」
「取らねえ方がいいようだ」
「何故よ」
「恐がるといけねえ」