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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

彼の意気込みは物凄く、態度は全然狂人のようであった。……こうして実に二十日間というもの画面の前へ坐り詰めていた。何をいったい描いているであろう? それは誰にも解らなかった。とにかく彼はその絵を描くに臨本というものを用いなかった。今日のいわゆるモデルなるものを用いようとはしなかった。彼はそれを想像によって――あるいはむしろ追憶によって、描いているように思われた。

こうして彼は二十日目にとうとうその絵を描き上げた。

彼は深い溜息をした。そうしてじっと画面を見た。彼の顔には疲労があった。疲労れたその顔を歪めながら会心の笑を洩らした時には、かえって寂しく悲しげに見えた。

クルクルと絵絹を巻き納めると用意して置いた白木の箱へ、静かに入れて封をした。

どうやら安心したらしい。

翌日阿部家から使者が来た。

「このまま殿様へお上げくだされ」

北斎は云い云い白木の箱を使者の前へ差し出した。

「かしこまりました」

と一礼して、使者はすぐに引き返して行った。

ここで物語は阿部家へ移る。

阿部家の夜は更けていた。

豊後守は居間にいた。たった今柳営のお勤め先から自宅へ帰ったところであってまだ装束を脱ぎもしない。