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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

だがその反対にも解される。そういう嬌態の誘惑を恐れ、それで島子を見ないのだと。

だが彼はある物を見てはいた。

彼の正面に壁がある。そこにある物がかかっていた。文政時代に似つかわしくない、外国製の柱時計であった。

黒檀の枠、真鍮の振子! 振子は枠から長く垂れ、規則正しく揺れている。で、そこから音が聞こえる。カチ、カチ、カチ、……カチ、カチ、カチ! ――セコンドを刻む音である。

長針と短針とが矢のように、白い平盤の表面に、矩形をなして突き出ている。その周囲を真円に囲み、アラビア文字が描かれてある。短針は十二時を指そうとしている。しかし長針は十時にあった。

カチ、カチ、カチ、……カチ、カチ、カチ、……時は刻々に移って行く。

「十分前だ!」

呻くような声! 琢磨の口から出たのである。冷静な顔や態度にも似ず、息詰まるような声であることよ!

カチ、カチ、カチ……カチ、カチ、カチ!

時は刻々に移って行く。

二人の男女を包んでいるところの、部屋の様子というものも、まことに異様なものであった。

十二

とはいえ今日の眼から見れば、洋風の書斎に過ぎないのではあるが。