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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

壁の一方にドアがあり、壁の一方に窓があり、巨大な書棚が並んでおり、書物がギッシリ詰まっており、数脚の椅子と卓とがあり、洋燈が卓の上に燃えており、それに照らされて青磁色をした、床の氈が明るんでおり、同じ色をした窓掛けが、そのひだにかげをつけており、高い白堊の天井の、油絵の図案を輝かせている。――というまでに過ぎなかった。

とはいえ時代は文政である。所は江戸の郊外である。そういう時代のそういう所に、こういう部屋のあるということは、かなり驚いてもよいことであった。

さらに驚くべきものがあった。

とはいえそれとて一口にいえば、一枚の張り紙に過ぎないのではあるが――だがその張り紙に書かれてある、四ツの箇条書きを見た人は、非常に驚くに相違ない。

時計の真下、振子の下に、張り紙は張ってあるのであった。

「八分前だ!」

呻くような声! 琢磨の口から出たのである。

と、島子の声がした。

「こちらをお向きなさいまし」

だが琢磨はまたいった。

「四分前だ! もうすぐだ!」

「こちらをご覧なさいまし。きっと見ることが出来ましょう! 私の肌を!」

やっぱり琢磨呻くようにいう。

「三分前だ! もうすぐだ! そうしたら解放されるだろう!」