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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

「妾を連れて逃げてくださりませ」と。

大家のお嬢様で眼覚めるような美人と駈け落ちをして夫婦になる、これは決して弥兵衛にとって、迷惑のことではなかったが、伊勢参宮を済ましていなかった。女を連れての神詣で、これはどうにも気が済まなかったので、

「帰途かならず立ち寄って、その時お連れいたしましょう」

弥兵衛は娘へそう云った。

男の真実がわかったと見えて、

「お待ちいたします」

と娘は云った。

参宮を済まして帰って来た弥兵衛は、村口の駄菓子屋で菓子を買いながら、それとなく例の屋敷のことを、そこの主人に訊ねて見た。

「大金持ちではございますが、犬神のお頭でございましてな、素人の衆は交際いませぬ。お気の毒なはあそこの娘で、名をおきたと云ってあれだけの縹緻、そこで父親が苦心をし、この娘だけは人並々に、素人衆に婚礼わせたいと……」

そう菓子屋の主人は云った。

弥兵衛は顔色を失って、そのまま屋敷へは立ち寄らず、駿河の故郷へ一途に走った。

犬神! それは「とっつき」とも云い、その種族の者に見詰められると、見詰められた者は病気になるか、財を失うか発狂するか、ろくなことにはならないというので、誰でもが交際わない種族なのであった。