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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

と、吉之助様に囁きました。

「さよか」と吉之助様はおっしゃいまして、しばらく考えておられましたが、「轎夫、この駕籠を茶屋の前で止めろ、人数の真ん中へ舁き据えてくれ」とこのようにおっしゃってでございます。

私も驚きましてございますが、俊斎様も驚いた様子で、首を一方へ傾げましたが、でも何んともおっしゃいませんでした。(西郷どんは大相もない人物、考えがあってやることだろう)と、こう思われたからでございましょう。

茶屋というのは立場茶屋のことで、町から街道へ出る棒端には、たいがいあるものでございます。

そこへ駕籠が据えられました。

と、不意に吉之助様が、

「あんまり早く起こされたので、わッはッはッ、この眠いことはどうじゃ。渋茶なと啜らんと眼が醒めんわい」

と、大きな声で云われました。

すると隙かさず俊斎様が、

「俺は酒じゃ、冷酒じゃ。こいつをキューッとあおらんことには、腹の虫めがおさまらぬげに」

と、これも大声で云われました。

捕吏らしい様子の者が十二、三人と、早立ちの旅人らしい者が五、六人がところ、土間にも門口にも門の外にも、ごちゃごちゃ入り混んでおりまして、茶屋は混雑しておりました。