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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

「現在坊主が……」

と口々に云って、船夫たちは諾こうとはしないのです。

「お黙り!」と女は癇にさわったような声で、「このお綱がいいと云ってるのだよ、そうさいいから船をお出しって……」

「しかし姐ご、現在坊主が……」

「餓鬼め!」

とたんに女の片手が、髪の辺へ上がりました。

「ギャーッ」

まるで獣の悲鳴でした。

最初から頑強に反対していた船夫の、三十五、六の肥り肉の奴が、そう悲鳴して顔を抑えましたが、体を海老のように曲げたかと思うと、船縁を越して水の中へ真っ逆様に落ち込みました。わたしの見誤りではありません、その男の左の眼から銀の線のようなものが、星の光にキラキラ光って、突き出されているのが見えたことです。小柄かそれとも銀脚の簪か? いまだにわたしには疑がわしいのですが。

「出せ船を!」

「出さねば汝ら!」

「同じ運命だぞ、命がないぞ!」

見れば吉之助様と俊斎様と、そうして北条右門様とが、抜き身を差しつけ船夫たちを取り巻き、そう叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)しておられました。

グ――ッと船は中流へ出ました。

茅渟海の真ん中へ出ました時、ご上人様は一首の和歌をしたため、吉之助様へお目にかけました。