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かいむ

怪夢

夢野 久作

「文学時代」1931(昭和6)年10月、「探偵クラブ」1932(昭和7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,100 字 · 23 页

青空文庫

おまけに今は深夜である。かなり大きい病院らしいのにコットリとも物音がしない。……騒いではいけない、憤ってはいけない。否々。泣いても笑ってもいけないのだ。いよいよキチガイと思われるばかりだから……。

私はそろそろとコンクリートの床のまん中に坐り直した。両手を膝の上に並べて静坐をして、眼を半眼に開いて、檻の鉄棒の並んだ根元を凝視した。神経を鎮めるつもりで……。

果して私の神経はズンズンと鎮静して行った。かなり広い病院の隅から隅までシンカンとなって……。

その時であった。私が正面している鉄の檻の向うから誰か一人ポツポツと歩いて来た。それは白い診察着を着た若い男らしく、私が坐っているコンクリートの床よりも一尺ばかり高くなっている板張りの廊下を、何か考えているらしい緩やかな歩度でコトリコトリと近付いて来るのであったが、やがて私の檻の前まで来るとピッタリと立ち止まった。そうして両手をポケットに突込んだまま、ジット私を見下しているらしく、爪先を揃えたスリッパ兼用の靴が、私の上瞼の下に並んだまま動かなくなった。

私はソロソロと顔を上げた。

その私の視界の中には、まず膝の突んがった縞のズボンと、インキの汚染のついた診察着が這入って来た……が……それはどこかで見た事のある縞ズボンと診察着であった……と思ってチョット眼を閉じ