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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
これは、やっと火事場から持出した彼女の手文庫の底に丁寧に天鵞絨のサックに入れて仕舞ってあったのを、つい数日前ふとしたことから発見したんだが、この妙子の秘蔵のメダルの中には、一体まあ何が入っていたと思う。この中には、野本君、その男の――越野が火事場で出逢った男の――妙子を無残に焼殺した男の――而かも、其の妙子が以前からずっと愛しつづけていた男の――写真が守り本尊の様にはりつけてあったのだよ。併し、若し、これが妙子が娘時代にその男の写真をはりつけて置いたまま、打忘れていたとでもいうのなら、まだしも、現に、彼女は僕と結婚した当座、確かにこの中へは僕の写真を貼りつけていたのだからな。それがいつの間にか、その男の写真と代っていたというのは、これは一体何を語るものだろう」
北川氏は、内懐へ手を入れて、一つの金製のメダルを取出した。そして、それを掌の上にのせてヌッと野本氏の鼻の先へつき出した。
野本氏は、怖れに耐えぬ様に、打震う手でそれを受取った。そして、メダルの表面の浮彫模様をじっと見入っていた。
北川氏は極度に緊張していた。皇国の興廃この一戦にありといった感じだった。