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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
彼は漸く我に返った様に、今度は方向を定めて歩き出した。
一日の興奮で疲れ切ったからだを、郊外電車に揺られながら、家にたどりつくと、彼はもう何をする気にもなれなかった。すぐに床をとらせて、ぐったりと横になると、間もなく、快い鼾声が、今日の勝利に満足し切った彼の喉から、ゆったりしたリズムを以て、洩れて来るのだった。
翌日、北川氏が眼を醒したのは、十時に近い頃だった。熟睡の後の快い倦怠が、彼を殊更らいい心持にした。彼は起上ると、寝衣のまま書斎へ入って行った。そこには甘い回想の材料が彼を待っていた。野本氏の手に残して来たのと寸分違わない、二つの金メダルが、書物机の抽斗の中に待っていた。
彼はそれを取出して愛撫する様に眺めるのだった。
始めの計画では、野本氏の所ばかりでなく、井上氏や、松村氏の所へも、それを残して来る積りだった。若し三人の内、誰が犯罪者だか判別しかねる様な場合には、どうしても一人に一つ宛メダルを残して来る必要があった。そういう積りで、彼は態々高価な摸造品を二つまで作らせたのだった。
併し、前にも云った様に、野本氏の外の二人はメダルを取出すまでもなく見分けがついた。