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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
真実彼の胸の中を切り開いてみると、九つの苦悩を一つの意志の力でもって辛うじて支えているのだった。彼は既に非常警戒の網が敷かれたことも、舞台の上から見てとった。しかも舞台では、赤星ジュリアが蜉蝣の生命よりももっと果敢ない時間に対し必死の希望を賭け、救おうにも救いきれない恐ろしき罪障をなんとかして此の一瞬の舞台芸術によって浄化したいと願っている。――一つは大洪水のような司法の力、一つは硝子で作った羽毛のようにまことに脆弱な魂――その二つの間に挿まれた彼、青竜王の心境は実に辛かった。
――なんとかして、最後の舞台を力一杯に勤めさせたい!
と彼は思った。だがジュリアの舞台は、もう誰の目にもそれと分るほど光りを失っていた。
「どうも変だな。ジュリアはいまにも倒れてしまいそうじゃないか」
「あたしも先刻から、そう思っていたところよ。どうしたんでしょうネ。きっとジュリアは疲れたんでしょう」
――ジュリア、どうした!
と、三階席から無遠慮な声が飛んだ。
それが耳に入ったのか、ジュリアはハッと顔をあげたが、その頸のあたりは短時間のうちにアリアリと痩せ細ってみえた。
――ジュリア、帰って睡ってこい!