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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
と、続いて二階から頓狂な声が響いた。
ジュリアはいつの間にか力なく下に垂れた顔を、またハッとあげた。彼女はギリギリと上下の歯を噛み合わせた。が――右手に持った真白な鴕鳥の羽毛で作った大きな扇がブルブルと顫えながら、その悲痛きわまりない顔を隠してしまった。
「別れの冬木立
遺品にちょうだいな
あなたの心臓を
ええ――
あたしは吸血鬼……」
という合唱につられたかのように、ジュリアの顔を隠した羽毛の扇がピクピクと宙を喘いだ。――そこで曲目は断層をしたかのように変化し、奔放にして妖艶かぎりなき吸血鬼の踊りとなる――この舞台のうちで、一番怪奇であって絢爛、妖艶であって勇壮な大舞踊となる。今夜のジュリアの無気力では、その辺で一と溜りもなく舞台の上に崩れ坐るかと思われたが、なんという意外、なんという不思議! 彼女は生れ変ったように溌剌として舞台の上を踊り狂った。
ウワーッ! という歓声、ただもう大歓声で、シャンデリヤの輝く大天井も揺ぎ落ちるかと思うような感激の旋風が、一階席からも二階席からも三階席からも四階席からも捲き起った。
「ジュリア! 世界一のジュリア!」