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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
素破こそというので、客席から割れるような拍手が起った。客席の灯火がやや暗くなり、それと代って天井から強烈なスポット・ライトが美しい円錐を描きながら降って来た。
「うわーッ、赤星ジュリアだ!」
「われらのプリ・マドンナ、ジュリアのために乾杯だ!」
「うわーッ」
その声に迎えられて、真黒な帛地に銀色の装飾をあしらった夜会服を着た赤星ジュリアが、明るいスポット・ライトの中へ飛びこむようにして現われた。
そこでジュリアの得意の独唱が始まった。客席はすっかり静まりかえって、ジュリアの鈴を転ばすような美しい歌声だけが、キャバレーの高い天井を揺すった。
「どうもあの正面の円柱が影をつくっているあたりが気に入りませんな」
と大江山捜査課長が隣席の雁金検事にソッと囁いた。
「そうですな。私はまた、顔を半分隠している客がないかと気をつけているんだが、見当りませんね。痣蟹は顔半面にある痣を何とかして隠して現われない限り、警官に見破られてしまいますからな」
「イヤそれなら、命令を出して十分注意させてあります」
ジュリアの独唱のいくつかが終って、ちょっと休憩となった。嵐のような拍手を背にして彼女がひっこむと、客席はまた元の明るさにかえって、ジャズが軽快な間奏楽を奏しはじめた。