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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

そのとき、何処からともなくヒューッ、ヒューッ、と妖しき口笛が響いてきた。無人境に聞く口笛――それは懐しくなければならない筈のものだったけれど、なぜか青年の心を脅かすばかりに役立った。聞くともなしに聞いていると、なんのことだ、それは彼にも聞き覚えのある旋律であったではないか。それはいま小学生でも知っている「赤い苺の実」の歌だった。この日比谷公園から程とおからぬ丸ノ内の竜宮劇場では、レビュウ「赤い苺の実」を三ヶ月間も続演しているほどだった。それは一座のプリ・マドンナ赤星ジュリアが歌うかのレビュウの主題歌だった。

「誰だろう?」

青年は耳を欹てて、その口笛のする方を窺った。それは繁みの向う側で吹きならしているものらしいことが分った。

「……あたしの大好きな

真紅な苺の実

いずくにあるのでしょ

いま――

欲しいのですけれど」

青年は心配ごとも忘れて、その美しい旋律の口笛に聞き惚れた。まるでローレライのように魅惑的な旋律だった、そして思わず彼も、「赤い苺の実」の歌詞を口笛に合わせて口吟んだのであった。……しかし、やがて、その歌の中の恐ろしい暗示に富んだ歌詞に突き当った。