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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

彼女は自室に入って、女神の衣裳を外しにかかった。いつもなら、矢走千鳥が手伝ってくれるのだが、彼女は臨時に終幕に持ち役ができて舞台に出ているので、ジュリアは自ら扮装を脱ぐほかなかった。

彼女は五枚折りの大きな化粧鏡の前で、まず女王の冠を外した。それから腰を下ろすと下に跼んで長い靴と靴下とをぬぎ始めた。演技がすんで、靴下を脱ぎ、素足になるときほど、快いものはなかった。彼女は透きとおるように白いしなやかな脛を静かに指先でマッサージをした。そして衣裳を脱ごうとして、再び立ち上ったその瞬間、不図室内に人の気配を感じたので、ハッとなって背後を振りかえった。

「静かにしろ。動くと撃つぞ。――」

気がつかなかったけれど、いつの間に現れたか、一人の怪漢がジュリアを睨んでヌックと立っていた。左手には古風な大型のピストルを持ち、その形相は阿修羅のように物凄かった。彼の片頬には見るも恐ろしい蟹のような形をした黒痣がアリアリと浮きでていた。これこそ噂さに名の高い兇賊痣蟹仙斎であると知られた。

ジュリアはすこし蒼ざめただけだ。さして驚く気色もなく、化粧鏡をうしろにして、キッと痣蟹を見つめたが、朱唇を開き、