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おんじん

恩人

豊島 与志雄

「帝国文学」1914(大正3)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,268 字 · 27 页

青空文庫

」

彼は叔父の顔を見守った。そしてその眼に何か云い出しかねているような思いの潜んでいるのを見た。

「お手紙にあったことは本当ですか。」

「偽りは少しも書かなかったつもりだが。」

「特別の御用件が無いというのも。」

「そうだ。只一寸君達に逢ってみたいということの外はね。」

「お出でなすって何か御不満はありませんでしたか。」

「君は何時もそんな風に物を考えるからいけないんだ。僕の心はよく君に分っている筈だ。そして君の心も僕には分っているつもりだ。……叔父が甥の家を訪ねたからって何も不思議はないだろう。それでいいんだ。」

「ええ、ですけれど、私は何だか客をとりもつことを知らないものですから、御退屈ではないかしらと思って……。」

「なにその方が気がおけなくていいんだ。」そう云って叔父は快活そうに笑った。

それで彼も漸く心が落ち着けたように思った。これだけ云ってしまえばもう何にも云うことは残っていないような気がした。それで画集などを開いて見せた。

「裸体画が大分多いようだね。」

「ええ。」と云って彼は微笑んだ。

その時ピアノの音が響いて来た。叔父は一寸耳を傾けて聞いているようだった。