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おんし

恩師

佐々木 邦

「現代」1926(大正15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,714 字 · 14 页

青空文庫

下手に卒業するよりも、もう一年居残ってやり直す方が宜いぜ」

とさえ言うものがあった。前代未聞の不景気の而もそのドン底に卒業するとは、私達も余程廻り合せが悪い。

私一個としてはもう半ば諦めていた。というのは、私にはこれでも自分を見る明がある。種々の機会から自己の研究をやっている。凡そ運のないことにかけては、自慢ではないが、未だ私以上のものを発見しない。自分一人いけないのみならず、他の運を悪くする力まで持っている。野球の対校仕合でも、私が応援に行くと屹度此方が負ける。斯ういう人間が大勢と競争して勝てるものでない。この故に或日浜口君が学校の掲示板を見上げながら、

「兎に角申込もうじゃないか? この辺なら何とかならないこともあるまいぜ」

と相談をかけた時も、

「さあ。もう大勢行っているんだろう」

と私は煮え切らなかった。

「然う諦めていちゃ駄目だよ。当って砕けるさ。僕が序に申込んでやる」

と浜口君は親友丈けに私の心持を呑み込んでいてくれた。

「不二商事ってのは大きいのかい?」

と私は浜口君が庶務課から戻って来るのを待っていて尋ねた。会社の信用程度も分らずに申込むのだから慌てゝいる。