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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

それは先にちょっと書いた往来の塀の外から屋根が見えているというこの家の土蔵なのだ。土蔵が女中の盲点に入っていたのは併し無理はなかった。少くとも女中の知っている限りでは、土蔵の扉は時候の変り目の外は殆ど開かれたことがなく、戸前にはいつも開かずの部屋の様に重々しい錠前が掛っていたのだから。僕は念の為にと女中を説いて、二人で土蔵の前へ行って見たが、その扉には、女中の言葉の通り昔風の大きな鉄の錠前が、まるで造りつけの装飾物でもある様に、ひっそりと掛っているばかりであった。だが僕は錠前の鉄板の表面の埃が、一部分乱れているのを見逃がさなかった。それは極く最近、誰かが扉を開けて又閉めたことを示すものではないだろうか。僕はふと夫人が第三者の為に土蔵の中へとじこめられているという想像に脅されて、錠前の鍵を持って来る様に頼んだが、女中はそのありかを知らなかった。それでも、僕はどうも断念出来ないものだから、窓から窺いて見ることを考えて、庭に降りて見廻すと、幸、蔵の二階の窓が一つ開いたままになっているのを見つけた。僕は梯子を掛けてその窓へ昇って行った。窓の鉄棒につかまって、もう殆ど暗くなっているその土蔵の二階を、僕はじっと窺き込んでいた。