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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

恋人でなくても、相手の冷淡は嫉ましいものだ。僕は心にもない音信の途絶えを済まない事に思った。と云って、何もそれだからこの手紙を書き出したのではない。もっと積極的な意味があってなのだ。君の手紙の中に黒川先生の近況を尋ねる言葉があったね。君は大阪にいて何も知らないけれど、君のあの御見舞の言葉は、偶然とは思われぬ程、恐ろしく適切であったのだ。僕は先生の身辺に継起した出来事について君の御尋ねに答えるべきなのであろうが、それは、いくら僕の手紙が饒舌だからと云って、一度や二度の通信では迚も書き切れるものでない。それ程その出来事というのが重大で複雑を極めているのだ。しかも事件はまだ終ったのではない。僕の予感ではこの殺人劇のクライマックスは、つまり犯人の最後の切札は、どっかしら見えない所に、楽しそうに、大切にしまってあるのだ。

実を云うと、僕自身もこの血腥い事件の渦中の一人に違いない。なぜと云って、黒川博士の身辺の出来事というのは、君も知っている例の心霊学会のグループの中に起ったことであって、僕もその会員の末席をけがしているからだ。僕がどういう気持で、この事件に対しているか、事件そのものは知らなくても、君には大方想像出来るであろう。