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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

女性なれば、矢絣の着物を、着ることも、廂髪に、結うことも、自由だからね」

彼はそこまで云うと、プッツリ言葉を切って、異様に黙り込んでしまった。疑ってはならない人を疑ったのだという意識が、一同を気拙く沈黙させた。

「それはそうと、姉崎さんの死骸のそばに落ちていたという、証拠の紙切れには、一体何が書いてあったのですか。祖父江さんは御承知でしょうが」

園田文学士が、白けた一座をとりなす様に、全く別の話題を持出した。

僕は、まだこの人達には、それを見せていないことに気附いたので、さい前黒川先生に描いて見せた手帳の頁を開いて、先ず園田氏に渡した。

「これですよ。奥さんは、躄車を象徴した記号じゃないかとおっしゃったんですが、女って妙なことを考えるものですね」

近眼の文学士は、僕の手帳を、近々と目によせて、一目見たかと思うと、実に不思議なことには、黒川先生と同じ様に、何かギョッとした様子で、急いでそれを閉じてしまった。

「祖父江さん、本当にこんな記号を書いた紙が落ちていたのですか。全くこの通りの記号でしたか、思い違いではないでしょうね」

園田氏は驚きを隠すことが出来なかった。