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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

根元には蓋のない泥溝が横わっていたりする、市内の住宅街では最も陰気な場所の一つだが、姉崎未亡人の邸は、その板塀の並んだ中にあって、塀越しに古風な土蔵の屋根が見えているのが目印だ。

姉崎家の門よりは電車道よりに、つまり姉崎家の少し手前の筋向うに当る所に、今云った草の生えた空地があって、その隅に下水用の大きなコンクリートの管が幾つもころがっているのだが、多分その管の中を住いにしているのだろう、一人の年とった男の片輪乞食が、管の前に躄車を据えて、折れた様に座っていた。僕はそいつを注意しない訳には行かなかった。それ程汚くて気味の悪い乞食だったからだ。そいつは簡単に云えば毛髪と右の目と上下の歯と左の手と両足とを持たない極端な不具者であった。身体の半分がなくなってしまっているといってもよかった。その上痩せさらぼうて、恐らく目方も普通の人間の半分しかないのだろうと思われた程だ。僕は道端に立止まって二三分も乞食を眺め続けたが、その間彼は僕を黙殺して、片方しかない手で折れ曲った背中をボリボリ掻いていた。

僕がこの躄乞食をそんなに長く見つめていたのは、人間の普通でない姿態に惹きつけられる例の僕の子供らしい好奇心に過ぎなかったが、併しそうしてこの乞食を心にとめて置いたことが、あとになってなかなか役に立った。