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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

ところが昨年の夏も終り近く、私はふと山の手の或る町で彼女と出会したのでした。私は其の時はじめて、彼女が夫に死に別れて以来、全く淋しく山の手のある町に女中相手に暮しているということ、震災以来、凡てが悲境に向って、彼女の嫁いだ家は勿論、里も全然駄目になってしまったことなどを知ったのでした。

われわれは再び昔の物語をしました。そうして昔の日に立ち帰りました。私はすえ子を真に愛し、彼女も亦私を愛しました。かくして昨年の秋から冬にかけて熱烈な愛が再びよみ返ったのです。

私は無論此の事を、妻の露子に語りました。語ったならいくらなんでも妻は私を捨てるだろうと思ったからです。然し之は誤解でした。露子はかねて云っていた通り、私がどんな女をどんなに愛してもいい、ただ自分を捨ててくれるなということをのみ云っていたのでした。

私はそれをいいことにして、昨年の暮あたりは殆ど家に帰りませんでした。そうしてすえ子の家に入りびたりにはいっていたのでした。

幸い、すえ子には子供はありませんでした。私が結婚したことをはっきり知らないすえ子に対しては、私は将来必ず夫婦になる約束をしたのです。