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あくまのでし
悪魔の弟子
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页
こうやって何故私がそのまま露子を捨ててしまわなかったかと、お考えになるでしょう。御尤もです、ただ私には露子の生霊が恐ろしかったのです。云いかえれば、露子が生きている限りは、私は彼女から逃れられないと感じていたのです。だから私はどんなに長く家をあけていても、必ずやっぱり家に戻って、いじらしい、然し呪わしい露子の顔を見なければならなかったのです。
私が愈々妻露子を殺そうと考えたのは今年の二月の事です。一月に妻の身体に異状が起りました、二月になっても其の様子は変りません。露子は妊娠したらしいのです。私のたねを宿したわけです。
何と不幸な事でしょう。世間の夫なら、否、人間ならば自分の妻が自分のたねを宿した事を心から喜ぶに違いありません。然るに此の私は、妻の妊娠を呪いました。憎い憎い妻が自分のたねを宿したのです。其の自分は、余りによく自己を知って居ます。妻は悪魔の種を腹にもったのです。嫌わしい妻が妊娠した、というだけでも恐ろしいことです。而もそれは悪魔の種なのです。私は決心しました。早く妻を殺して此の恐ろしさから逃れよ、と。
私が妻露子を殺す決意をしたのは、勿論一ツには露子の生霊から逃れたい為でありました。