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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

私は側を見廻しました。妻は私と同じ部屋に、床を並べて寝ていた筈です。しかし、露子の姿はおろか、床すらそこにはありません。

失敗?

私はがばとはね起きました。そうしていきなり座敷の襖を引き開けたのです。

そこに私は、台所から今しも出て来たらしい、甲斐甲斐しい女房振りの露子をはっきり認めました。

彼女の顔はいつものように稍愁をおびてはいますが、極めて平和で、私を見るといきなり斯う云いました。

「お起きになって? 余りよくおよってらっしゃったから、今まで黙っておいたのよ、あなたもう夕方の五時だわ」

私は何か云おうとしました。然し舌が乾いて一寸口がきけませんでした。

「お前……お前ゆうべは眠られたかい?」

「いいえ、余りよく眠れなかったの」

「だって薬をのんだんだろう」

「ええ、のむことはのんだんだけど」

「なにかい……あの……俺がやっただけのんだのかい」

「あら、あんなにのんだら死んじまうわよ」

露子は世にも可愛らしい笑をもらしながら、半ば私の無智を憐れむような表情をしながらこう申しました。

「あなたね、御承知ないようだけど、一体お薬をのみ過ぎるのよ、あなたがずっとお留守の間にね、私ねむられないもんだから、いつもの××薬局にお薬貰いに行ったのよ。