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あくまのせいだん
悪魔の聖壇
平林 初之輔
「令女界 第六巻第一号」宝文館、1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,931 字 · 10 页
私はその頃まだ若かったから、その時に受けた心のいたでから回復する力をもっていましたが、相手はいま五十に近いのです。私の与えようとする打撃は、その男にとっては致命的なものであるに相違ないのです」
「三年前のことです。そのころ私は西国のある淋しい田舎町にすんでおりました。ある冬のこと、私はひどい流行感冒にかかって町の病院へはいっていました。私にはそのころ一人の恋人がありました。ごめん下さい、私は何しろまだ二十二だったものですから、その女は十七でした。二人は口に出してこそ言いませんでしたが、互いの眼と眼、心と心とで、かたく未来をちかっていたのでした。民子は――ごめん下さい、その女は民子といったのでした――毎日二度ずつかかさず病院へ見舞いに来てくれました。ある時は私の好きな水仙の鉢をもってきて私の枕元においてくれました。ある時は私のたのんだ小説を買ってきて、二時間も私によんできかしてくれました。医師は読書を禁じていましたが、私が無理にせがんだのです。彼女は声が室外に漏れないように気を配って、私の耳のすぐそばへ口をもってきて読んでくれました。私は彼女の呼気の温味を頬に感じました。