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あくまのかお

悪魔の顔

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页

青空文庫

「あの人は、悪者は外から入って来て、チョコレートへ毒を入れたと思って居るようですよ」

美しい濤子夫人は、かなり激しい敵意を持った口調で、斯う言い乍ら、塀の穴などを探して居る、花房一郎の間延びのした姿を窓から指しました。

「あの男は非常に良い頭を持って居ますから、今にキット犯人を探し出すでしょう」

「ですから、あんなトボケた様子をするのが憎らしいんです。私が怪しいなら何故私が怪しいとはっきり言わないのでしょう、そして男らしく私の室なり身体なりを調べたら宜いじゃありませんか」

夫人の美しい眉は、ピリリと神経的にひそみます。花房一郎が自分を疑って居ると思うことが、この美しい未亡人に取っては、たまらない不愉快な事だったのでしょう。

十分ばかり後、千種は夫人の素晴らしい魅力と癇癖から遁れて、家の外へ飛出しました。

「オイオイ、大分夫人の御機嫌が悪いよ」

千種は庭を横切って、花房探偵の方へ近寄って行きました。かなり宏壮な庭園で、此辺へ来ると、何処からも人に見られる気遣いはありません。

「放っとけ放っとけ、今にわかる」

「犯人の目星は付いたのか」

「イヤ、一向」

花房一郎は、ケロリと長閑な顔をあげて、秋の空を仰ぎ乍ら続けます。